「お、おはよう。早えな。」
「そうかな^^」
「ごめん、邪魔した。」
「ううん、別に。^^」
机には何らかの教科書、
きっと勉強していたのだろう。
他愛ないやりとりで彼女を
教室に残し、朝練へ赴いた。
それからというもの、
大会の終わるまで週何日かの
朝練があったが、
彼女はそこそこの頻度で
朝、教室で一人勉強する時間を
作っていた。
「おはよう。^^」
「おう、じゃ、行ってくる。」
「頑張ってね^^」
これ以上も以下でもない。
そう、話すことは特になかった。
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大会も無事終わり、いつもの
日常が戻ってくる。
普段からそんなに早起きでない
彼にとっての朝練期間は、
不本意なストイックに分類される
行為そのものだった。
それから、何気ない気がかりがあった。
それにはこれといった意識というのも
覚えはない。
ただ単に、単純なことが少しだけ
気になっていただけ。
結局慣れることのなかった
早起きに若干の気怠さを
感じながらも、
朝練があった時の如く、
皆が来るより少し早い朝に学校へ。
「おはよう。^^」
「・・・おう。(いた。)」
彼女は英語が好き。
それで結構な頻度で塾に行っていること。
それから週の半分くらいはバレエだった。
あとはクラスのヤツのゴシップネタだったり、
冗談だったり・・・。
路上ライブ出身の二人組のアーティスト。
ハーフと中性的、どちらもイケメンの
中性的イケメン推しであること。
彼はいろんなドラマに出ていたもんね。
そうそう、ドラマは大ブームの時、
どのシーンのどこが良かった!!
なんて話もあったかな。
今度どこかに行きたいね。って話は
この朝の教室で少し話したことだった。
その後、クラスの友達と4人で
その後のいつか一緒に行った遊園地は、
結局何が楽しかったか
ハイライトしたり・・・。
もう自分には朝早くから
学校へ行く理由もない。
なんとなく、二人で話している
それがただ面白かった。
それでも彼女の一人の時間に
差し支えないように、
話すのは少しだけにした。
それはまだ誰も来る気配のない朝の教室。
広い黒板と立ち並ぶ机を斜めから
まばゆく差し込む朝の陽ざし。
教室の窓際、
その後ろ側に彼女はいつもいた。
教室後ろの扉、少し小さな窓越しから
見やる一瞬の後ろ姿。気付くと僕も、
いつの日かその朝に来るようになっていた。
彼女の名前は水原さん。
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「明日の朝、教室で待ってる。」
少し慣れた手つきで、
対角線の二隅だけを小さく
織り込んだ手紙の最後に
そう綴って渡した。
明日も会いたい、
必ず二人になれる時間が欲しいと、
そう決めた。
たった一つ。
ただ、伝えたいことがある。
覚悟を決めて、それで散るなら
それでもよい。
知らぬ間に心の形を変えた
この逢瀬に、
いずれかの終止符を
打とうとしていた。
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次回、水原さん最終話。
ネタバレ。センマ、またしくじる。
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