零章 センマの青春篇 0-15.さ行とか行の間

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新たな春。それは少しだけ長い春。

『アオハルかよ』と表現して久しいその春は、

これまでに実感したことのない、

悩ましくも微笑ましい、青春そのものになる。

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何気ない仕草は 僕にあの子を気づかせた。

気がつくといつも その子を想ってた。

目線が、心が いつも彼女を追っていた。

 

 

 

クラスで一際大人びて見える、可憐な子。

そのくせ少しのやんちゃ気質。

なるほど絶妙なギャップが否めないのだ。

総選挙あらばセンター確定の

男女問わずの人気者。

 

 

 

「お前、沖本のこと好きなんだろー?」

 

 

 

最も小学生らしい拙いからかい合いに

ムキになるヤツは少なくなかった。

 

 

 

彼女の名前は沖本さん。

到底叶いそうにないこの思いは、

 

 

 

 

 

「え~となりじゃん、えぇ~。。。」

 

 

 

 

 

なんて言われたから、

同じように沖本に言い返した。

そんな意地っ張りは

当然ブラフであるセンマ少年。

席替えで隣を勝ち取ったことによる、

初恋本編の開幕である。

 

 

 

 

席が隣になったと言えど

それまで大した交流もなかったので、

まず何を話したらいいのかさえ

分からないものである。

そんなことで少し悩んでいるから、

 

「ねえ消しゴム貸して?」

 

「っっぅえ?!・・・あ、うん。」

 

話しかけられるだけでこの反応であった。

 

 

  

 

 

女性はやはり男性より成長が早く

賢くなりやすいと言うべきなのか。

 

 

 

そんな拙い反応や、ようやく考えた末に

とりとめもないことを聞いたり、

話したりするから、

 

  

 

「意味わかんない、きっしょいんだけど!(笑)」

 

「オイっ!!!」

 

 

 

二言目にはディスられるように

なってしまった・・・。

 

 

    

それからまだ悩みの種は尽きず、

 

 

 

「センマ~いちゃいちゃしてんじゃねえよ~(笑)」

「センマもう好きになるの早えぞ~(笑)(笑)」

 

 

 

恐らく沖本推しの男子が少々厄介者たちで、

毎回のごとく冷やかしを受ける上に

常に誰かがゴシップネタを狙っていた。

とはいえ決して敵にはなり得ないのが

男子の単純なところだが、

いいネタの提供者としての地位がまず

確立してしまったのは事実である。

 

 

もうただでさえ精いっぱいなのに、

ってか「好きになるの早え」って、

それはもうずっと前からもう・・・。

  

 

 

 

 

とにかくこの先、沖本さんと

沖本推し男子どもから

悟られないことに専念した

長く孤独な闘いが続くのである。

 

 

 

 

 

ある日、彼女は教科書を忘れたことがある。

 

 

 

「このページ、沖本にみしてやれ。」

 

 

 

先生のその指示は、学園天国にさせた。

こういった時ばかりはさすがに

ボロが出そうになる。

言わずと知れた授業中の天国。

勉強する日もしない日も

本当にこの時にかかっていた。

 

 

 

それから沖本さんとは

素直な反応は依然として

見せられずとも、

次第に仲良くなり、

彼女の友達と僕の友達とで

つるむようになっていった。

 

 

 

学校終わりのいつもの公園。

放課後の校庭。

神社の近くの駄菓子屋さん。

ガチャガチャの練り消し集め。

友達の家、遂には僕の家にも

皆で来てくれた。

 

 

 

お目当ての沖本さんが

来てくれたことが一番嬉しかったのは

言うまでもないが、

塾がない日をいつも以上に

高揚した。

 

 

 

時に彼女の用事で遊べないときは

過ぎた期待を思い知り

かなり落胆したものだ。

 

 

 

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「バドやろう?一緒に!」

 

 

 

 

 

ある時、彼女の誘いで

クラブはバドミントン部を

一緒になって選んだ。

一緒とはいえよく遊ぶ仲間も

という意味での“一緒”だったが、

以降、尚なお幸せに浮かれる

毎日になった。

 

 

 

休み時間の自由帳。

丸文字とやや強い筆圧で書かれた絵は

冷やかされるゆえ表に出せない宝物。

ケタケタと笑う優しい陽の光のような笑顔。

白く透き通った横顔。

クラブ中、コートのネット越し、

集合かけられ座るとき、

無意識に彼女を視界に置いていた。

学校終わりの帰り道。少し小さな後ろ姿。

 

 

 

他の女の子友達よりも、着実に

多くの時間を確かに過ごしている。

そうやっていつも側にいるのに

それ以上は近づけない。

やっぱりどこか遠い存在だった。

 

 

 

何気ない仕草は 僕にあの子を気づかせた。

気がつくといつも その子を想ってた。

目線が、心が いつも彼女を追っていた。

 

 

 

彼女は高嶺の花子さん。

 

 

 

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「センマは〇〇ちゃんと××ちゃん

どっちが好きなの?」

 

 

 

またそれはある時、

僅かにしか共にできない

帰り道、

振り向きざまに突然尋ねてきた。

 

 

 

「どっちも普通だよ!!!」

 

「絶対〇〇ちゃんに惚れてるよー。笑」

 

「ちっっげえよ!!!」

 

 

 

それは本心の筈なのに、

何故だか強がった口調になった。

 

 

 

いっそ想いを隠すなら

「〇〇ちゃん。」って言えばいいのに。

何故かそう、出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ今日遊べる?センマんち行きたい。」

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続く!!!

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