新幹線の窓の外は嵐だった。
不気味に高く見える空の暗雲は
赤黒く稲光を放っていた。
上田から軽井沢、高崎にかけて
稲妻が横に閃光するのを
この時に初めて見たのだ。
まったく皮肉なものである。
窓に顔をつけて無邪気に喜ぶ
子どもを横目に、
この先を暗示するかのような
嵐模様は、
全くその通りとなった。
遠巻きに轟く雷鳴とともに
運命に暗雲が立ち込んでいた。
嫌な予感というものは
つくづく当たる傾向にあると
つい思ってしまう。
正に元の木阿弥。
長野に転勤する前の
息苦しい生活が
ひとつの歪みもなく
キレイに戻ってきた。
もはや言及するのも辟易するくらい、
この時の母は残念としか言いようがない。
(【0-4.スケープゴート】参照。)
そしてこの先、
これまではほぼ知らん顔だった
センマ少年だったが、
じわじわと苛まれていくことになる。
2001年、小学校3年生、夏。
近所の友達のお母さんが厚意で
夕食をごちそうしてくれた。
当然このとき、家に連絡を入れた。
その時は祖母のセツが電話に出た。
「よかったね~たべてらっしゃい。」
「ちゃんとお礼をいうのよ~。」
要件を言ってそんな短いやり取りだった。
友人宅はどうやらいつも少し早めの
夕食だったので、
夜の7時には帰ることができた。
他の友達とはしたことがないことを
したような、特別な友達感を喜びながら
家に帰宅した。
「バッシャーーーー!!!・・・。」
何が起きたか分からなかった。
体中から水が滴っている。
冷や水が突然、後ろから重くのしかかった。
振り向いた瞬間、
何者かに勢いよく横殴りを受けた。
昆虫のように四肢の細い華奢は
水飛沫を上げながら後ろに
あおむけに吹き飛んだ。
ぼやけた視界に目を凝らすと、
祖父、茂だった。
まだ薄明るい黄昏時の
大きな影を見上げると
背筋にパルスが走った。
「5時には家に帰ること。」
これまで一度も破ったことのない
この門限をその日、翻した。
あまりの激昂にしばらく、
何について怒られているのかが
分からなかった。
しかし他に及ぶ非常に不味い
影響があるということは一瞬で
察することができた。
「最高権力者の逆鱗に触れてしまっている。」
誰にも庇護されない行く末が
永遠に来ると悪い想像が絶えず襲う
・・・愕然とした。
ただ黙って俯いたまま、
泣く気力さえ失せていた。
遅帰りを承認した祖母は
ただ黙って見ているだけだった。
その日、父が帰ってくるまで、
締め出された。
21時を過ぎて家に戻れた。
無言の帰宅だった。