0-8.輝いた陽炎

木漏れ日の差す山道はよく晴れた昼前。

上り坂を4WDで駆け抜ける。

少し寝ぼけた子どもを乗せて、

ほんの少しだけアクセルとばして、

陽の光がキラキラ誘う場所へ。

 

 

どこぞにあるアスレチック。

各所にある温泉巡り。

もうどこかは分からない牧場で

大の字で仰いだ広い空。

ズボンの裾を上げて

はしゃいだ川辺に、

涼しさと煙たさが交じる

炭火の匂いのBBQ。

 

 

 

春の陽気は瞬く間に新緑に移ろい、

碧く爽やかな休日を映し出してくれる。

 

 

 

また月曜から学校に行く。

昼過ぎに帰ってくる。

友達のところへ遊びに出かける。

夕食の匂いがする。

それは外にも漂う、お腹の空くあの匂い。

吸い寄せられるかのように家に帰る、

何故だか大体いつも泥汚れをこさえて

帰ってくる。

少し洗って、

テレビを見ながら夕食を食べる。

しばらくすると父が帰ってくる。

たまに一緒に風呂へと連れてかれる。

そして寝てしまう。

 

 

何気ない一日が流れていくこと。

広い世界では無意味な歪を

知ってしまったからこそ。

井の中の蛙のことなんて

もはやいざ知らず、

人様からしてもどうでも些細な

そんなことでさえ幸せなのだ。

 

 

 

曇天に蒸し暑さの続く梅雨も

家にいる時間が楽しかった。

知人から送られてきたお茶を入れてたり、

近くにホームセンターがあったので

ガーデニングを始めてたり。

 

 

 

 

いつも片手にゲームボーイを

こさえながら、

今までとは違う私生活を

少年からしても見ているだけで

楽しかった。

 

 

しつこい暑さに少しだけうなだれながらも

部屋の中に微かに木霊する雨音と共に

薄暗く潤う窓の外を穏やかに眺めながら、

夏を待った。

 

 

 

 

 

 

2000年、夏。

あれだけ極寒だった冬はこの地で

起こったことだとは思えないくらい、

来たる7月とともに夏のさかりが訪れて

猛暑が続く。

 

そしてそんな夏は毎年、

8月の下旬に夏休みの終わりが

近づくとともに、

真夏のピークが嵐のように去ってゆく。

 

 

 

 

 

 

夏の後ろ姿に火照りと恋しさを

そっと残して、ある知らせが入る。

 

 

 

 

 

 

それは泡沫の自由。

夏のカゲロウように切なく揺らめき、

高く上がり過ぎたシャボン玉は、

はじけて消えるそのときが迫っていた。

 

 

 

 

 

 

父の人事異動。本社就任、東京。

 

 

 

独裁国家が海外に出た人民を

甘い言葉で呼び戻すような、

その時もまた、迫っていた。

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