「ということだ。
荷物まとめてテメェら出ていけ!な!」
半分ほくそ笑んだような
汚い野獣パンクロッカーは、
そう言って子機を預かり
部屋を後にした。
「大丈夫!!?怪我ない!?」
勢いよく母が飛び込んできた。
「腹が減った。」
それだけ訴えた。
泣くのも、わめくのも
もうそんな気力も
残っていなかった。
「出てけって言われた。」
囁くようにそう伝えると、
「知ってる。もう出ていこう。
平塚でじいじが待ってる。
いい暮らしができるよ。」
平塚のじいじ。
あしながおじさんのように
背が高くて、
荘厳としたオーラの放つ
圧のあるおじいさん。
怒ると怖かった。
でも、普通に優しい
おじいちゃん。
身体が不自由なため、
杖を撞いて歩いてる。
その杖が当時のセンマの
身長くらい長く見えた。
本当に思い残すことはなかった。
悔やみきれない無念、
我が友の仇を
自分なりに果たした。
「茂おじいちゃんは
心の病気だから転校する。」
友達に対する変な言い訳もできた。
これで明日学校に恥じることなく
行ける。
父のことも嫌い。それで終わり。
可哀想だった、大変だった母に
ついていく。奇妙な潔さが心にあった。
「また長野に行きたい。」
そう言った。
友達を作ることは好きだが、
さすがに、また新たな地域で
友達作りをするのが
ちょっと億劫になりかけていた。
秒で提案を蹴られたが、
平塚には優しいじいじと
おばあちゃんがいる。
最近まで従姉弟だと思ってたが
実は叔母さんだった幸ちゃんもいる。
平塚に行くことを
躊躇いもなく決められた。
翌日。
「ちょっと。じいさん呼んでるわよ。
来なさい。」
逆襲されるんだと思って
手を振り払った。
セツはすかさず、
「バカなことすんじゃない!
大丈夫だからいいから来なさい。」
と、また手を掴んだ。
連れられた和室には、
茂が構えていた。
「お前ェ!!んにゃロウやりやがって!!!」
凄んでいた。
騙された。最悪だった。
ここまでして完膚なきまでに
潰しておかないと気が済まないのかと
気がおかしくなりかけた。
「お前、いてもいいぞ。」
「・・・え?」
耳を疑った。
殺されると思っていたから、
その期待を予想外過ぎる方向に
裏切られた。
後日の、この茂のジャッジは
未だに謎に包まれている。
何かを改心したとは考えづらい。
鉄の掟を止めた?それはセツが
特に伯母の牧が嫌がるだろう、
考えられない。
男の喧嘩には、闘いあった末の
妙な友情が芽生えることがある、
とても不思議な生き物だ。
「それなのか。」
どうしてと聞いても、
「うるせぇ!!」
それしか言わなかった。
以降、猶はその後に顔を合わせても
何も言ってこなかった。
この時、息子を捨てる選択をした
父が死ぬほど情けなかった。
何を謝るでもなく、
「おい、買い物行くぞ。」
そう言って連れてこられたのは
家電量販店だった。
「好きなもの買っていいぞ。」
そう言って、
PC一式、ゲームソフトを数タイトル、
ゲーム用にと30インチほどの
液晶テレビをその日に買い与えた。
恐らく父なりの謝罪の仕方なのだろう。
素直に「ごめん。」すら言えない、
呆れるほどの惨めなバカ親だと
散々罵った。完全に尊敬できない親が
ここで完成しきってしまった。
思春期に手を焼くこと、確定である。
こうして、
茂の横暴により孫の謀反に発展したこの戦は、
これもまた茂の独断と偏見によって
呆気なく幕を閉じるという、
身勝手だが前代未聞の終戦として
幕を閉じた。
敢えてとびっきりに格好付けて
言い方を変えよう。
かくして、
誰の反発を受けることを
予想していなかった王朝は、
大きく予想に反した
最年少の謀反を真向に受けた。
そして誰もが想像しなかった
大番狂わせ。
権力にひれ伏す者たちの、
時勢を変えられぬ
小さな王朝の未来は、
齢、僅か11才の一人の
少年によって、
新たな時代の風を匂わせ
大きく変わる未来を
予兆させていた。
以降、お家の動乱は一旦の終息を迎えた。
時は大きく移ろい3年後。
2006年。御年14才になる
センマのもとを
母は無言で去っていった。
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暗いのばっかりでごめんね。
でも次からは明るいの行くよ。
次回も過去編、でも、
★★★“センマの青春篇”★★★
乞う、ご期待!\(^o^)/
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