0-11.峻烈の引廻

 

0-9.抑留】より、

我が身を置く家への畏怖と不審を

物理的にも叩き込まれたが小学生が

ここにいた。

そして、事件は起きる。

 

 

 

 

0-10.黒い鉄球】より、

いじめっ子、中田の存在により

学校生活に不自由が生じていたが、

来たる小学5年生、耐え抜いた末、

遂に念願の別のクラスになった。

 

 

 

「中田に嫌がらせされる。」

 

 

 

この訴えを担任に事あるごとに

訴えていたが、

そういったものは如何に証拠が

残らないように遂行するかが

流儀なのだろう。 

 

 

「死ね。」「喋るな。」「虫けら。」

中田は暴力ではなく、

これらの罵詈雑言を言葉巧みに

気にさせるタイプだった。

 

 

 

姿形のない言葉の暴力。

キズや物の破壊などが

行われなかったため、

中田の虐めを行う現場は

担任には抑えられることが

出来なかった。

 

 

 

この時点で絶望だった。

 

 

 

 

 

だが、運命は味方してくれた。

 

 

 

祈るような思いで見た新クラス表。

5年1組の名簿順、“な行”に

彼の名がなかった。

 

 

 

ふわりと、されどゆっくり。しっかり。

ずっと続いていたような長い雨が

嘘みたいに晴れたキレイな空を眺めながら、

幸せを感じ続けた。

 

 

 

 

 

学校生活が自ずと改善されたからの

勢いは著しいものだった。

学校終わりに毎日、友達を家に呼んだ。

 

 

  

うちに来てゲームをする。

近所で缶蹴りをする。

他の家に遊びに行った友達と合流して

また自分の家に戻ってくる。

家に来る友達は毎回10人近くに

及んだ。

 

 

 

きっとそこは、

自治会の頭領だった祖父、

何かと週末の晩に同僚を連れてくる

父に似たのだろう。

 

 

 

 

 

だが、ある日の夕方。

いつものように大勢の友達を連れて

遊んでいたところに、

 

 

 

 

 

「おらぁあああ!!!

いい加減にしろっバカヤロウ!!!!!!!」

 

 

 

  

 

巨人が叫んだかのような轟音が

家中を駆け巡った。

友達も全員、凍った。

恐らく何が起こったか分かっていない。

が、

それが誰なのかすぐに分かった。

 

 

 

 

祖父、茂のものだった。

茂はその状況を歓迎しなかった。

 

 

 

 

 

急いで声のした方に駆けつけ

外に飛び出ると、

友達の小さなマウンテンバイクたちが

その全てが隣地との仕切りの塀に

横に飛ばし叩きつけられたかのように

蹴っ倒されていた。

 

 

 

彼は敷地内の駐輪場にいくつも止めてある

それが邪魔だったらしい。

 

 

 

 

唖然とした。

「友達を穢された。」

そう認識した。咄嗟に、

 

 

   

「友達にこれは見せられない!!!!!」

見られたら死ぬような思いで

急いで立て直した。   

 

 

 

 

 

倒れた自転車を立ち上げる

俯き様、横に目をやると、

茂の履く足袋靴のつま先が

見えた。

 

 

 

途端、後頭部に角材を叩きつけられた。

 

 

 

痛いとかを感じる前に驚きが隠せなかった。

視界が勢いよくブレた。

身体から力が無条件に抜けていく感覚があった。

これから嬲り殺されるような気がして

恐怖がわらわらわらわらわらわらわらと

肚の底から募った。

 

 

 

 

 

何かを叫んでいる。だが

もはや籠って濁るような音しか

聞こえてこなかった。

 

 

 

少しずつ鋭くなり、音が

入ってきた。

 

 

 

友人たちが駆けつけてきた。

茂に謝っている。

そしてノビきった少年に肩を貸し

部屋に戻すと一言残した。

 

 

 

「センマ。これからは井藤の家に行こう。」

 

 

 

井藤君。

彼の家は友達に対して

とても寛容な家庭だった。

 

 

 

何を隠そう、

0-9.抑留】にて、

ご飯をごちそうしてくれた家は

井藤のご家庭である。

 

 

 

 

友達たちは、項垂れたその家の

少年の厳しい家庭を遠慮し、

労う気持ちでそう優しく告げた。

 

 

 

賛成した。当然である。

友達の私物までに被害が及ぶ

こんな家になんて断じて

呼びたくない。

井藤君の家に行く、

絶対そうしたほうがいいと

思った。

 

 

 

それから

 

 

 

 

 

「もううちには来ない。」

 

 

 

 

 

その思い込みは、10才余りの少年が

一心に積み上げてきた何かが、

音を立てて崩れていく瞬間だった。

 

 

 

 

そこに格式もルールも感じられなかった、

ただの理不尽だけが残った。

 

 

 

 

 

敵は、

 

 

 

 

 

敵は・・・、この家にあり。

 

 

 

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ちなみにいじめっ子の中田君、もう一回くらい出てきます。

次回、センマ繚乱。

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