0-5.夢と現

伯母、牧には二人の娘がいる。

伯母の一心で、あるところのいわゆる

お嬢様学校に彼女らを通わせていた。

 

彼女らと年の近い私は、

何かと比較の対象にあった。

 

 

祖父、茂は次世代の長男坊という意味合いで、

「あれを習え」「コレをしろ」と期待をかけたが、

伯母はどちらかというとそうではなかった。

 

何故ならあの母の息子だから。

 

どこまでも鬼ではないが、余計な情をかける前に

蔑むことを選んだのだろう。

 

会うたびに何かと愛娘と比較しては、

「恥ずかしい子だ。」「こんな子と遊んじゃだめ。」

「出来損ない。」などと謗られた。

 

同時に親である、とりわけ母に対して、

教育がどうとか、礼儀が、常識が彼是と

罵られていたそうだ。

 

 

 

このとき、保育園児である私は両親が共働きのため、

親が帰ってくるまでの暫くは祖父母に面倒を

見てもらうことが多かった。

 

 

 

朝起きると父はちょうど家を出た。

保育園に行くときは祖父が車で送ってくれていたので、

母が同乗して、保育園まで私を送り届けた後に

母もまた会社に行った。

それから夕方、祖父がまた車で保育園まで迎えに来る。

その繰り返しだった。

 

 

 

忘れたころに大きな諍いが起きる。

それがいつ起こるか分からない不安が

いつも静かに忍び寄っていた。

いつも休日に起こることだったので

土日は出かける予定がないとびくびくした。

 

 

 

そんな私の安住の地となったのが、保育園だった。

保育園では先生も友達もみんな優しい。

ピアノの前で歌を歌う、外に出て鬼ごっこをする、

給食やおやつの時間。ディズニーのビデオを見たりする

ゆっくりとしたひと時。

毎日会う友達たちや、遊び方など、

特に変わり映えこそなかったが、

そこには

「どうしようもない何か」なんていう

得体の知れない不安は何もない。

刻々と平和な時間が流れていく、

いつしか保育園に行くことを待ち遠しく思った。

 

 

 

次第に私は、

祖父のお迎えだけ嫌がるようになった。

 

 

 

 

 

家に帰ると祖母セツは毎日のごとく

近所のママ友なる人と自宅でお茶会をやっていた。

パートの専業主婦で基本的に人当たりが良いセツ。

商売人の妻ゆえにそのあたりは心掛けているのだろう。

来客やいつもそのお茶会にいらっしゃる

ご婦人たちにとても親切に接する。

なので地元のご婦人様たちととても仲が良かった。

 

 

 

その後、祖母は私にかまける時間があれば

お菓子を買ってきて一緒に食べたり、

自転車の後ろに乗せて散歩したり。

 

家の決まりのことで怒られることは

あるけれど、

私に対してはごく普通の可愛い孫として

面倒を見てくれた。

 

 

 

 

図らずも、保育園が、友達が支えてくれた。

そして母に見せる姿とは

まるで違う優しい祖母。

 

とうとう私は母と祖母、

どちらを信じたらいいのか

分からなくなった。

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