【0-3.吊し上げ】は、
一切の手抜きが感じられない、
本当に徹底した吊し上げが行われる。
そのために家族全員が寄ってたかる。
その中には他所から来る親戚の姿もあった。
長女、伯母の牧。
彼女は三姉弟の一番上の存在。
牧 → 父 → 猶
という序列構成になる。
この王朝は原則、年功序列。
従って牧はNo.3の実権を
握る者となる。
言わば君主、王妃に最も
口利きができる家臣である。
牧の夫は公務員。
当時でいえば肩書き、収入のどちらも
文句なしの職業である。
牧はそんな立派な夫を持つにも
かかわらず、
しばらく金銭の仕送りを
祖父、茂からもらっていたことが
後から発覚する。
それが物言う事が可能である証拠であろう。
このような母に対する吊るしのような出来事は、
忘れたころに勃発した。
その裁判は弁護なし、
陪審員完全買収の出来レース。
不当に、そして苛烈な糾弾を
浴びせられていた。
母もあまり我慢強くないタイプだったので、
時折、祖母セツに反発していた。
しかしそんな集団リンチが起きようとも
最早セツに対する反発は次第に
日常の定番と化していた。
稀だが、不毛な小競り合いに疲れるのか、
祖母がその場を投げ出して
自室へ立ち去ることもあった。
しかし。ここで二つのミステリーが残る。
言ってしまえば、
面倒だが世間一般にもある
ただの【嫁姑問題】である。
家庭により争いの限度は違えど、
取っ組み合いに発展するような
大ごとな諍いを
セツ、母はお互いに起こしては
いなかった。
苛烈な吊し上げの起きる引き金が
どこかにある。
そしてもう一つ。
他所へ嫁いだ伯母、牧が、
ご足労をかけてまで、
どうしてお家騒動に
わざわざ首を突っ込み、
母を詰るのか。
土地の4割程度が駐車場になっており、
寺院参拝者や月極として貸し出していた。
よって全域を住宅にしなかったため、
幾ら大きめの建物と言えど、
間取りの都合上3世帯でぴったりだった。
叔父、猶について。
プロ野球選手を目指すが、その門はやはり、
とても狭いものだった。
大学卒業後、少年、実業団など
数々のチームの監督を担う。
いつか野球の名門校の常勤となり、
甲子園出場をコーチの役でもって叶える。
故に今は非常勤の派遣講師。
そんな夢を持っていた。
しかし待ったなしだった現実は、
猶を歪ませた。
彼の妻もまた、公務員であること。
そう、それは、
“体裁は決して汚すべからず”
収入が妻より少ないという偏見は
男としての沽券ないしこれに抵触する。
そして
さらに猶を追い込んだ現実があった。
バブル時代の証券マン。
崩れど商社でリスタート。
この時、間もなく支店長の座に就く男。
文句なしの社会人、父の存在だった。
実兄との社会的な雲泥の差を感じずには
いられない。あえて言うなら、
最低限しか尽くせない自分。
その土俵では既に勝負がついていた。
伯母、牧はいずれこの王家に
家族で戻ることを約束していた。
しかしその約束は次第に
色褪せていくことが目に見えていた。
何故ならそこから
誰も家を出る予定はなかったから。
もう一世帯の同居は土台無理な話だった。
「誰かが出なければ私の椅子は空かない。」
こうしている時も、
彼らは茂、セツという
大御所のお膝元で
御眼鏡に適っていく。
この思い込みが彼女を焦らせた。
「内外ともに認められている兄に
唯一ケチをつけるとするならば。」
一方、
「謀反者として糾弾し、
追放を企てるには。」
それはサバンナに
突然放り出された生肉のように
母が謀略の餌食にされたのである。
見事にこの場において母が適役だった、
それしかいなかった。
そして狡猾な手段に至るところまでも
二人は利害は一致したのだろう。
そう、単なる嫁姑の小競り合いが
過激に槍玉に上げられる引き金は
同居の猶がその現場を察知した時である。
猶は、ぼやに油を注ぎ大火事にするかのように
父が妻に選んだ母を執拗に唾棄すべき存在と
訴えたのだ。
まるで鬼の首をとったかのように
セツを庇い、母に対し
親の仇と言わんばかりに激昂した。
そうして裁きの日取りが設けられる。
罪人にプライベートなど問答無用
なのだ。
それを猶、若しくはセツがリークし、
牧が来るのだ。
我々家族もろとも追放するための結託。
茂、セツを養い労わるシノギの大きさより
格式により相応しく平和を守る者は
誰だと訴えたのだろう。
そのすべては君主の目につくところで
功績を稼ぐため。
そこには後釜を狙うことへの執念、
うねりを上げ鈍く輝くどす黒い強欲があった。