ある休日の出来ごと。
部屋で一人、ゲームをしたりおもちゃで遊んで過ごしていた。
昼過ぎから父と母が、
「ちょっとここで待っててね。」といったっきり。
夕方になっても両親が未だ帰ってこないことに不安を募らた。
屋根裏部屋を含めて3階建てになっている我が家は、
切り分けられていない羊羹やカステラのような長方形をしており
子ども部屋は1階の隅っこにある小さな部屋だった。
扉を開けるとすぐ、2階へ続く階段が目の前にある。
話声が2階から話声が聞こえることに、
この家に一人取り残されたような不安は解れ、
そーっと部屋を出て、恐る恐る階段を上った。
微かだが、話し込む声には真剣さが混って響き渡っている。
普段みんなはどんな話をしているのだろうか。
「なんだか聞きたい。」
これから大人の話を盗み聞きすること、
大人の目を欺くことの罪悪感は次第に
子ども心を高揚させた。
2階は長い廊下の先に広い居間がある。
そろりそろりと居間に迫っていく。
居間に通ずる扉は閉まっているが、
その扉は格子状の木枠が透明のガラスを
両面から挟んだデザインになっているので、
廊下から居間の様子を覗くことができる。
薄いガラスなので防音されることもなく、
話声はいよいよはっきり聞こえてくる。
大勢の話声が聞こえた。
そこには家のみんながいると直感で分かった。
ガラス越しに様子をそっと覗く。
「見つかったら怒られるかもしれない。」
そんな不安も入り交じりながら、
細心の注意を払って扉の近くに
しゃがんで近づき覗き見た。
祖父母、そして何故だか不敵にほくそ笑む
猶と伯母の足元で土下座をしていた。
泣きながら、
「この家に住まわせてください。」
と嘆願していた。
その場に父の姿はなかった。
そういった家族会議などの話し合いを
極端に面倒くさがり、
パチンコ屋に逃げていたことが
後の話で分かった。
「この家に住まわせてください。」
額を床に押し当てながら、
幾度か哀しげに木霊していた。
その後ろ姿は紛れもなく、
母だった。
この日に僕は、この家には
どうしようもない何かがあると、
やっと察してしまった。